建設業の財務諸表の注意点
建設業許可申請・事業年度終了変更届・経営事項審査等では、建設業法、建設業法施行規則で指定された様式での財務諸表を作成する必要があります。なお、会社設立後まだ最初の決算期を迎えていない場合は、開始貸借対照表を作成します。
財務諸表では決算報告書の勘定科目に計上された金額が、財務諸表ではどの勘定科目に該当するのか、またその内容があっているのかを確認しなければいけません。
財務諸表には6種類の書式があります。
(1)「貸借対照表」
(2)「損益計算書」
(3)「完成工事原価報告書」
(4)「株主資本等変動計算書」
(5)「注記表」
(6)「附属明細表」及び「事業報告書」
※附属明細表は、資本金が1億円を超える、又は貸借対照表の負債合計が200億円以上の株式会社のみに必要となるものです。
財務諸表作成のポイント(法人の場合)
法人の場合は決算報告書、個人の場合は青色申告決算書または白色申告収支内訳書を参考に作成することになります。
この建設業法、建設業法施行規則で指定された様式に記載する科目は、決算報告書の記載科目とは一致しないものがありますので,建設業法、建設業法施行規則で指定された様式で作成しなければなりません。
@「消費税込」か「消費税抜」のいずれかで統一する。なお、経営事項審査申請をする場合は、「消費税抜」に統一する。
ただし、消費税免税事業者は消費税込で記載する。
A金額は千円単位。千円未満の端数は、切捨て、四捨五入、切上げのいずれかに統一する。(会社法上の大会社は百万円単位。端数は百万円単位で切捨て)
B勘定科目として次のようなものを使用する。
C兼業(建設業以外の事業を併せて営む場合)においては、兼業分について別途記載する。(科目は適切な科目を使用)
※兼業分が資産総額の5%以下の場合は、同一の性質の科目に含めることができる。(5%ルール)
D貸借対照表の「その他」についても5%ルールが、損益計算書の「雑費」については10%ルールが適用されます。
【貸借対照表】
流動資産
完成工事未収入金 |
完成した工事の請負代金で、未回収のもの。一般的な「売掛金」に当たります。 |
未成工事支出金 |
完了していない工事の工事費、材料費、外注費等。一般的な「前渡金」「手付金」に当たります。決算報告用の貸借対照表上では「仕掛品」、「仕掛工事」となっていることがあります。 |
固定資産
減価償却費累計額 | 購入後、使用を重ねることによって価値が減った建物・機械などの資産の償却額の累計額です。(詳細は下記に掲載します) |
流動負債
工事未払金 |
工事原価に参入されるべき工事費の未払金。工事材料購入も含みます。一般的な「買掛金」、「未払費用」に当たります。 |
未成工事受入金 | 引渡前の完成していない工事の請負代金として受け取った金額。一般的な「前受金」に当たります。 |
【損益計算書】
完成工事高 | 事業年度中に引渡しの完了した工事の総請負高。一般的な「売上高」に当たります。なお、この金額は、「直前3年の各事業年度における工事施工金額」状の直前年度の合計額と一致します。 |
完成工事原価 | 上記の完成工事高に対応する工事原価。一般的な「売上原価」に当たります。これはさらに、「材料費」「労務費」「外注費」「経費」に分類するため組み換えが必要になります。金額が一般的な損益計算書と異なる場合も出てきます。 |
完成工事総利益 | 完成工事高から完成工事原価を除いた額。一般的な「売上総利益」に当たります。 |
完成工事原価報告書
上記の完成「工事原価」の内訳です。株式会社の場合、株主総会や税務申告用の決算書類として「製造原価報告書」を作成しますが、そのまま代用はできません。
完成工事原価報告書は、未成工事の分は除外するためです。そして期末仕掛品については、、「材料費」「労務費」「外注費」「経費」に振り分ける必要が出てきます。
@材料費 | 工事のために直接購入した素材、半製品、製品、材料貯蔵品勘定など。 |
A労務費 | 現場で作業する作業員に対する賃金、給料及び手当、法定福利費など、工事に直接要した人件費。 |
B外注費 | 材料などを下請に供給して下請に作業を外注した費用。(Aの労務費は除く) |
C経費 |
材料費、労務費、外注費以外の経費で、完成工事のために直接かかった経費。 |
完成工事原価報告書の注意点
A労務費について
自社の現場代理人、現場事務所の事務員などの給料は「現場作業」ではないので労務費には含めません。これらはC経費になります。
下請に外注した場合でも、工事材料を自社購入せずに元請などが材料を支給して作業のみを行う場合は、B外注費ではなく労務費に含めます。この場合、労務外注費として別出しで記載します。
B外注費について
下請が工事材料を自社で購入して施工する場合です。当然、下請が購入した材料費も含まれます。
C経費について
表のようにさまざまなものがありますが、決算報告書では一般管理費に仕訳されていることも多いです。工事のために現場に行くための交通費、駐車料金などは一般管理費の交通費ではなく、原価経費に含めるべきものですが、株主総会や税務申告用の決算報告書では一般管理費の交通費に仕訳されていることも多いです。厳密には、これらも確認して振り分ける必要があるかと思います。
なお、「うち人件費」の費用は、現場代理人、配置技術者(主任技術者または監理技術者)の給料が含まれるものです。配置技術者(主任技術者または監理技術者)は必ず現場に常駐しなければなりませんから、必ず費用として発生します。この点も「うち人件費」の額を含めて確認しておくことが必要かと思います。
減価償却累計額の注意点
通常消耗品は一括でその年度に費用計上しますが、減価償却の対象となる資産(減価償却資産)に関しては、複数年に分けて費用を計上する必要があります。このように、減価償却は、計上した費用(減価償却費)と同額だけ固定資産の価値を減額してゆくことです。
貸借対照表の固定資産の部には、減価償却の累計額を、損益計算書には、単事業年度の減価償却額を記載しますが、減価償却の処理方法(定額法・定率法)や決算報告書の掲載方法は会社によって様々です。建設業許可の書式としては、貸借対照表の固定資産の部においては、建物・構築物、機械・運搬具、工具器具・備品、リース資産についてそれぞれ記載する必要がありますが、決算報告書においては一括している場合、償却分をマイナスした価額を掲載する場合(直接法といいます)があり、作成には留意が必要な点があります。
1)決算報告書では一括記載してる場合
この場合は、法人税確定申告書の内訳を参考にして建設業許可の書式に記入してゆきます。
※法人税確定申告書の「別表16」(旧定額法又は定額法による減価償却資産の償却額の計算に関する明細書)関係の資料。
2)確定申告書に内訳がない場合
この場合は、損益計算書の「販売費及び一般管理費の計算内訳」と「製造原価報告書」に記載された減価償却費を参考にします。ただし、これは累計額ではないのでこの額を使用するわけにはいきません。
3)直接法で記載している場合
建物・構築物などの減価償却対象物件の購入価額に償却率をかけて毎年償却し、その減額した価額を各物件の価額欄に記載している場合(直接法による場合)は、建設業許可の様式の財務諸表上では、何も記入しません。株主総会や税務申告用の決算報告書では最近はこの直接法が主流になっていますので留意が必要です。
注記表の留意点
注記表は、平成18年5月1日の新会社法施行に伴い、新しい計算様式として新たに加わったものです。会社法上、独立した書面として作成する必要はありませんが、建設業許可の書式としては、独立した書式で作成する必要があります。記載しない項目には「該当なし」と記載します。
@重要な会計方針について
資産評価基準・評価方法、固定資産の減価償却の方法、引当金の計上基準、収益・費用の計上基準、消費税および地方消費税に相当する額の改易処理の方法等について、すべての法人で記載が必要です。
A貸借対照表関係について
担保資産、保証債務、手形遡及債務、損害賠償義務、関係会社への債権・債務、役員との間の取引等について記載します。
B損益計算書関係について
工事進行基準による完成高、売上高および売上原価のうち関係会社の売上・仕入分等について記載します。
C株主資本等変動計算書関係について
事業年度末日における発行済株式の種類・数、同じく自己株式の種類・数、剰余金の配当等について記載します。
Dその他
事業報告書について
事業報告書は、許可の新規申請においては必要ありません。許可取得後の毎年の決算報告の際に提出します。
事業報告書は、その期の事業の概況、会社の概況、決算期後に生じた会社の状況について記載します。様式は任意です。
財務諸表作成のポイント(個人事業主の場合)
基本的には、法人の場合と同様ですが、個人の場合の財務諸表は以下の2種類です。
@貸借対照表
A損益計算書
個人の場合も、青色申告決算書または白色申告収支内訳書を参考に作成することになります。以下に留意点を記載します。
貸借対照表
純資産
1)期首資本金
前期末の資本の合計で、決算書の「元入金」に相当します。
2)事業主借勘定
事業主が事業外資金から事業のために借りた額で、決算書の「事業主借」に相当します。
3)事業主貸勘定
事業主が営業資金から家事費などに充当した額で、決算書の「事業主貸」に相当します。
4)事業主利益
決算書の「青色申告特別控除前の所得金額」に相当します。
この「事業主利益」は損益計算書(個人用)の「事業主利益(事業主損失)と同額でなければなりません。
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